2026年8月24日

このコラムでは、一医療者の目線から、日々の療養や健康に役立つことをお届けしていきます。月に1回程度のペースを考えています(少し遅れてしまったときは、どうかご容赦ください)。 第1回は、さいのうちクリニックとして新しく歩みはじめるにあたり、自己紹介と、これから大切にしたいと考えていることを書かせていただきます。
救急外来の洗礼を受けた研修医時代
私は三重大学を卒業したあと、三重県伊勢市にある三次救急病院の伊勢赤十字病院で初期研修を受けました。三次救急病院とは、重い病気やけがの患者さんを引き受ける、地域の救急医療の要となる病院のことです。
いちばん印象に残っているのは、やはり救急外来です。救急車からの電話がひっきりなしに鳴り、運ばれてくる患者さんの初期対応にあたりました。
研修医は、まだ半人前です。それでも患者さんから見れば、一人の医師です。不安を抱えて来られた方に、どう接すれば安心していただけるのか。一刻を争う場面で、考えるより先に体を動かすにはどうすればよいのか。苦しいことも多くありましたが、この時期に教えていただいたことは、今も診療の土台になっています。
脳神経内科の道へ
研修を終えたあとは、京都医療センターで脳神経内科医としてのキャリアを始めました。
脳神経内科が診るのは、脳から脊髄、筋肉、末梢神経まで。守備範囲のとても広い分野です。診断の考え方はある程度整理されているものの、神経の医学そのものはまだ発展の途上にあり、日進月歩で新しいことが分かっています。毎日が新しい状況の連続で、大変ではありましたが、実り多い日々でした。ここも三次救急病院でしたので、救急外来を受診される脳卒中の患者さんも数多く診療しました。
研究と留学
もともと認知症に関心があり、実際にヒトの脳の組織を使って研究がしたいと考えて、新潟大学脳研究所の博士課程に進みました。
そこで扱ったのは、病理解剖を受けられた方の組織です。病理解剖とは、亡くなられたあとにご遺族の承諾を得て行う解剖で、死因を確かめ、行われた医療を振り返り、医学の進歩に役立てることを目的としています。この組織を用いて、神経変性疾患 ― 脳や脊髄の神経細胞が少しずつ失われ、物忘れや体の動かしにくさ、筋力の低下がゆっくり進んでいく病気 ― の仕組みを探る研究を行いました。
ヒトの組織を自分の目で、顕微鏡で見た経験は、ベッドサイドでの物の見方まで変えてくれました。物事を順序立てて調べ、情報を整理し、論文としてまとめていく道筋も、学びの連続でした。
その後は岡山県倉敷市の倉敷中央病院で2年間、脳神経内科医としてさらに研鑽を積み、オーストリアのウィーン医科大学の研究機関へ留学しました。脳炎(脳に炎症が起きる病気)の患者さんの組織から、その仕組みを探る研究です。事情があって2年の予定を1年に切り上げて帰国することになりましたが、外国で一から生活基盤を築き、研究を続けた経験は、面白く、そして自信になりました。
そして、地域医療へ
帰国後は、所属する京都大学脳神経内科の医局からのご紹介で、脳神経リハビリ北大路病院、長岡京病院、倉敷中央病院、京都大学医学部附属病院で外来を担当しながら、当院の新しい体制の準備を進めてきました。
市中病院での臨床、大学での研究、海外留学、そしてこれからは開業医。振り返ってみると、医師のキャリアのいろいろな面を経験させていただいたと思います。その一つひとつに、導いてくださった先達がいて、身をもって病気のことを教えてくださった患者さんがいました。これからは、そこで身につけたものを総動員して、地域の皆さまの健康のお役に立ちたいと思っています。
これからの当院について
今回のリニューアルにあわせて、当院では予約の方を優先してご案内する運用を始めます。ご予約がなくても受診いただけますが、お待ちいただく時間を短くするために、あらかじめのご予約をおすすめしています。あわせて、午前の診療開始をこれまでより早い8時としました。忙しい毎日のなかでも、できるだけ無理なく通っていただける形にしたいと考えたためです。
また、父の代から訪問診療に力を入れてきたこともあり、これからは神経の病気をお持ちの方も、外来から訪問診療まで続けて診てまいります。
脳神経内科に限った話ではありませんが、現在の医学では根治できず、長く付き合っていく必要のある病気は少なくありません。そうした病気をお持ちの方にとっても、薬を受け取るだけの場所ではなく、通うことで少しでも心が休まり、前向きな気持ちになれる ― 当院をそんな場所にしていきたいと考えています。
工事の間、かかりつけの皆さまにはご不便をおかけしております。新しい体制で皆さまをお迎えできるよう、スタッフ一同、準備を進めております。
10月5日(月)より、さいのうちクリニックとして診療を始めます。どうぞよろしくお願いいたします。
さいのうちクリニック 院長
齊ノ内 信