物忘れ
物忘れ

年をとるにつれて「人の名前が出てこない」「物をどこに置いたか忘れる」といった“もの忘れ”は、どなたでも経験するものです。誰しも記憶力はゆっくりと低下していくため、年齢相応の「生理的なもの忘れ」であれば過度に心配する必要はありません。
しかし、その中には「軽度認知障害(MCI:健常と認知症の中間段階)」や「認知症の初期段階」、あるいは「脳や身体の病気」が隠れている「病的なもの忘れ」が存在します。加齢によるもの忘れは「食事をしたことは覚えているが、メニューが思い出せない」という状態ですが、認知症によるもの忘れは「食事をした体験そのものを忘れてしまう」といった違いがあります。
近年、アルツハイマー型認知症に対する新しい原因療法薬(アミロイドβ抗体薬)が登場したことにより、「いかに早く正確な診断をつけるか」がより重要になっています。また、病気によるもの忘れの中には、早期発見・適切な治療によって大きく改善が見込めるものもあります。
当院では、脳神経内科の専門医として病的なもの忘れを診断し、患者様らしい生活を長く続けるための総合的なサポートを行います。
もの忘れの原因を大きく2つに分けて精査・診断を行います。
「認知症だと思っていたら、実は別の病気だった」というケースがあります。これらを見逃さず、適切な治療につなげることが専門医の重要な役割です。代表的な疾患に以下のようなものがあります。
甲状腺機能低下症や、ビタミン(B1、B12、葉酸)の不足、脱水などが原因で認知機能が低下することがあります。不足を補う治療で改善が見込めます。
高齢になってから発症する「てんかん」は、けいれんを起こさず、「ボーッとして反応がなくなる」「数時間のできごとがすっぽり抜け落ちる」といった一過性の健忘発作として現れることがあります。抗発作薬の内服で記憶障害が改善する治療可能な病態です。
脳内に髄液が過剰に溜まる病気です。もの忘れだけでなく、「小刻みですり足になる歩行障害」や「頻尿・尿失禁」を伴うのが特徴で、溜まった水を抜く手術(シャント術)を行うことで症状の改善が期待できます。
数ヶ月前の軽い頭部打撲などが原因で、頭蓋骨の下に血が溜まって脳を圧迫し、もの忘れや歩行障害をきたします。血を抜く手術で回復が期待できます。
現在の医学では未だ根本的な治療を提供できない疾患に対しても、進行を抑える治療や症状を和らげる治療法は蓄積してきており、原因を診断し、適切な治療に繋げることが専門医の重要な役割です。代表的な疾患には以下のようなものがあります。
脳にアミロイドβやリン酸化タウなどの異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞が減っていく最も頻度の高い認知症です。記憶力や判断力が徐々に低下します。
記憶障害に加え、「実際にはいない人や動物が見える(幻視)」、睡眠中に大声で叫んだり暴れたりする(レム睡眠行動障害)、手が震える・歩きにくくなる(パーキンソン症状)といった特徴的な症状を伴います。
記憶障害よりも、以前に比べて極端に怒りっぽくなる、万引きなどの社会的ルールが守れなくなる、同じ行動を繰り返すといった「性格や行動の変化」が目立ちます。
脳梗塞や脳出血など脳の血流障害が原因で起こります。症状の階段状の進行が特徴とされ、背景には高血圧や糖尿病、脂質異常症などの血管リスクが関わっています。
ご自身では気づかないことも多いため、ご家族から見て以下のようなサインがあれば、ご本人に配慮しながら受診を促してください。
症状がいつ頃から、どのように始まったのかを詳しく伺います。認知症診療ではご家族からの客観的なお話が非常に重要です。生活歴や持病、内服薬なども確認します。
日付や場所の質問、言葉の記憶、図形の模写などの簡単なテスト(MMSEやMOCA-Jなど)を行い、記憶力や注意力、理解力などの認知機能を客観的に評価します。
甲状腺機能の異常やビタミン不足、生活習慣病など、もの忘れの原因となる全身の病気がないかを調べます。
CTやMRI検査を行い(他施設に依頼します)、正常圧水頭症や脳梗塞、脳腫瘍などの病気がないか、脳の萎縮の程度などを確認します。より高度な検査(髄液検査やアミロイドPETなど)が必要と判断した場合は、専門医療機関におつなぎします。
アルツハイマー型認知症などに対しては、症状を和らげるお薬(コリンエステラーゼ阻害薬など)を処方します。また、幻覚や妄想、気分の落ち込みなどが強い場合には、それらを和らげるお薬を調整します。新しい疾患修飾薬(レカネマブ等)の適応となる可能性のある早期の患者様については、専門医療機関へご紹介します。
お薬以上に大切なのが「環境を整えること」です。ご家族の介護負担を減らし、ご本人の生活リズムを整えるために、介護保険サービスの申請や利用についてアドバイスを行います。
適度な有酸素運動、バランスのよい食事、十分な睡眠、そして人との会話や趣味を続けることが、認知機能の維持に役立つとされています。ご本人に合った生活習慣を一緒に考えます。
認知症は、早期に関わることがご本人の「自分らしい生活」を長く守ることにつながります。不安なことがあれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
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