2026年9月28日

「また頭痛がしてきた。薬を飲んで我慢しよう」
「頭痛のせいで、せっかくの予定を楽しめないかもしれない」
こうした不安を抱えながら過ごしておられませんか。頭痛は「体質だから仕方がない」「我慢すればいい」と諦められていることも多いですが、この20年ほどで頭痛の医療は大きく変わりました。
いま治療のスタンダードになっているのが、起きてしまった頭痛を鎮めるだけでなく、頭痛が起こる回数そのものを減らすという考え方です。これを「予防療法」と呼びます。
今回は、慢性頭痛の中でも日常生活への支障が大きい「片頭痛」について、その特徴と、予防という選択肢をご紹介します。
1. 片頭痛は「我慢する体質」ではなく、治療できる病気です
日本では、慢性的な頭痛に悩む方が約4,000万人いると推計されています。そのうち片頭痛の患者さんは約840万人(15歳未満も含めると約1,000万人)で、慢性頭痛を抱える方の約5人に1人(約21%)が片頭痛ということになります。
特に20〜40歳代の女性に多く、30歳代の女性ではおよそ5人に1人が片頭痛を持っているという報告があります。
片頭痛のメカニズムは完全には解明されていませんが、顔や頭の感覚をつかさどる三叉神経と、脳の血管とのあいだで起こる一連の反応(三叉神経血管系の活性化)が関わっていると考えられており、脳が刺激に対して過敏になっていることが背景にあります。頭痛そのものが病気である「一次性頭痛」に分類される、神経が関わる病気です。
痛みに加えて吐き気や光・音への過敏を伴い、暗い部屋で寝込まざるをえないこともあります。仕事・家事・学業への影響は大きく、個人の負担だけでなく社会全体の労働生産性の損失としても注目されています。近年はCGRP関連製剤などの画期的な薬剤が登場している一方で、投薬により予防するという選択肢自体が、まだ世間では十分に認知されていない状況です。
2. あなたの頭痛は片頭痛?
片頭痛には、単なる頭の痛みにとどまらないいくつかの特徴的なサインがあります。以下の特徴に心当たりはありませんか?
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ズキズキと波打つような痛み:心臓の拍動に合わせて痛むことが多いですが、締め付けられるような痛みのこともあります。
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体を動かすと痛みが悪化する:歩く、階段を上る、お辞儀をするなどの日常動作で痛みが強くなるため、発作中はじっと静かにしていたくなります。
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光・音・臭いに敏感になる:普段は気にならない「部屋の明かり」「テレビの音」「洗剤や香水の匂い」が不快に感じられます。
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吐き気や胃のムカムカを伴う:頭痛と一緒に気持ち悪くなったり、実際に吐いてしまったりすることがあります。
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目がチカチカする(前兆):頭痛が始まる前に、ギザギザした光やチカチカする点が目の前に現れ、視界が見えにくくなることがあります(閃輝暗点などの前兆)。
また、頭痛が始まる数時間前から、あくびが何度も出たり、首や肩が異常に凝ったり、イライラしたりといった「予兆」を感じる方も少なくありません。
※このチェックは受診の目安です。診断は、問診と診察、必要に応じた検査をもとに医師が行います。
3. 痛み止めの飲みすぎが、かえって頭痛を増やすことがあります
頭痛がつらいからといって、市販の鎮痛薬や処方された発作時の薬を頻繁に飲んでいませんか?
発作時の薬を使いすぎると、脳が痛みに対して過敏になり、かえって頭痛の回数が増えたり慢性化したりすることがあります。これを「薬剤の使用過多による頭痛(MOH)」と呼びます。
目安として、3ヶ月を超えて定期的に、以下のような頻度でお薬を飲んでいる場合は注意が必要です。
| 薬剤の種類 | 使いすぎの目安 | 主な例 |
| 単一成分の解熱鎮痛薬 | 月に15日以上 | ロキソプロフェン、イブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリンなど |
| 複合鎮痛薬(複数の成分を配合した薬) | 月に10日以上 | 鎮痛成分にカフェインや鎮静成分などを組み合わせた市販薬の多くが該当します |
| 片頭痛の発作時に使う薬 | 月に10日以上 | トリプタン製剤(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタンなど)、エルゴタミン製剤 |
「痛くなるのが怖くて、痛みがないうちから予防的に飲んでしまう」という悪循環に陥っている方は少なくありません。この状態から抜け出すには、単にお薬を我慢するのではなく、適切な指導のもとで予防薬を導入する必要があります。
4. 「頭痛の回数を減らす」予防療法という選択肢
現在の片頭痛診療では、痛みが起きたときに抑える「急性期治療」だけでなく、頭痛の発作回数や辛さを根本から減らす「予防療法」を組み合わせていくことが世界的な標準治療となっています。
どのような人が予防療法の対象?
・頭痛発作が月に2回以上ある方
・生活に支障をきたすような強い頭痛が月に3日以上ある方
・痛み止めの使用頻度が高く、お薬の飲み過ぎ(MOH)が懸念される方
予防療法を行うメリット
1. 頭痛が起きる回数(日数)を減らす
2. 頭痛が起きたときの痛みの強さや持続時間を軽くする
3. 発作が起きたときの痛み止めの効き目を良くする
4. 結果として、痛み止めを飲む回数を自然に減らすことができる
予防に使う薬
・毎日飲む「内服予防薬」: 脳の血管や神経の過敏さを抑えるお薬を使います。血圧に影響しにくいカルシウム拮抗薬(ロメリジンなど)や、血圧や不整脈の治療にも使われるβ遮断薬(プロプラノロールなど)、その他抗てんかん薬や抗うつ薬など、患者さんの年齢、体質、合併症(高血圧や不眠など)に合わせて最も安全で相性の良いお薬を選びます。
・「CGRP関連製剤」: 近年、片頭痛が起こるメカニズム(三叉神経から放出されるCGRPという物質が脳の血管を拡張させて炎症を起こすこと)が明らかになってきています。CGRP関連製剤は、従来の飲み薬とは異なり、片頭痛が起こる原因物質に直接作用する新しい注射製剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビークなど)として2021年より国内で使用可能となりました。1ヶ月に1回(または3ヶ月に1回)の皮下注射で、「臨床試験で実証された予防効果」「優れた安全性」「効果発現の早さ」が特徴です。これまで従来の予防薬で十分な効果が得られなかった難治性の方にとっても、治療の選択肢を大きく広げる一手となっています。さらに現在は注射製剤と同様の作用を得られる内服薬(ナルティーク、アクイプタ)も使用可能となり、これまで注射の痛みや注射部位反応(赤く腫れる、痒くなる)などの副作用で治療を躊躇したり、断念していた方も導入しやすくなりました。
メッセージ
・片頭痛は我慢する病気ではなく、コントロールし、回数を減らすことができる病気です。
・痛み止めを週に2〜3回以上飲んでいるなら、一度ご相談ください。予防療法を考えるタイミングかもしれません。
・予防薬の効果を判断するには2〜3か月かかります。焦らず、頭痛ダイアリーをつけながら、一緒に「頭痛のない日」を増やしていきましょう。
院長